次回2024年7月開催の指導者養成セミナーの募集を開始いたしました!

一般社団法人SSTARソーシャルスキルトレーニングで
思春期ASDの社会生活を支援

学校版PEERSの実践から

学校では、人間関係を築くために必要なスキルを様々な学習活動を通して学びます。しかしながら、そこがうまくいかずに悩みを抱えている生徒は少なくありません。中でも難しい課題の一つは、コミュニケーションのスキルを身につけることでしょう。小学校高学年や中学生の思春期の子どもたちにとって、周りの生徒と上手にコミュニケーションが取れることは、非常に大きな意味を持ちます。なぜなら、それは友だちを作ることにつながるからです。友だち=居場所であり、居場所があれば、学校で安心して過ごすことができます。しかし実際には、肝心の“友だちを作るコミュニケーションの取り方”がわからなくて、困っている生徒が大勢います。

  PEERSは、友だち作りのスキルを学ぶソーシャルスキルトレーニングです。会話を始めて、その会話を続ける中でお互いのことを知ること、友だちと一緒に遊ぶ時のルール、いじめやからかいに対応する方法など、学校生活を中心に思春期の子どもたちが社会的な場で直面するいろいろな場面への対応方法を学ぶことができます。

  学校版ピアーズは、思春期版ピアーズと違って保護者セッションがありません。ソーシャルコーチの役割を果たす保護者がプログラムに参加していないので、宿題への取り組み方が曖昧になりがちです。それを補うため、保護者にピアーズの内容をお便り“ピアーズ通信”でお知らせし、保護者にも各セッションの目標や宿題の内容を理解してもらえるように工夫されている学校もあります。

一方で、学校で行うピアーズの良い点は、保護者が忙しくてピアーズのプログラムを受けられない子どもであっても、学校で学ぶ機会を得られるということです。また、リーダーやコーチを務めるのが教師なので、子どもたちの学校生活上の課題を共有しやすく、何か問題があれば、すぐに対応することができます。カリキュラムは、思春期版ピアーズとほぼ同じですが、いじめについてはより丁寧に扱う構成となっています。

子どもたちはピアーズの授業のなかで、学んだことを発表し、積極的に自分の意見を言うという経験を積み重ねていきます。そして、自分の思いを受け止めてもらう場面が増えることで、少しずつ自信をつけていくのです。また、行動リハーサルを通して練習したことを、同じ学校という社会的な場で実践することができるので、スキルの般化が促されることになります。先ほど述べたように保護者セッションはないのですが、実際の場面を教師が間近で見ていて、校内で共有することができるので、ソーシャルコーチの役割を複数の教師が補っていると言っても良いでしょう

学校版ピアーズは、支援学級や通級指導教室の自立活動として、授業時間内に設定することが可能です。また、将来的には、不登校の子どもたちを対象としたピアーズや、放課後のサークル活動などの場で、より多くの子どもたちにプログラムを受ける機会を提供できるようになればと夢は膨らんでいます。SNSなど、子どもたちを取り巻く環境は複雑で、表面化しにくい傾向にありますが、どれほどネットワークが進んでも、子どもたちの成長は、子ども同士のコミュニケーションを基盤とした様々な経験が支えています。一人でも多くの子どもたちが、人と繋がりながら学校や社会で安心して過ごすことができるようにピアーズを実践していきたいと思います。

  最後に、エピソードをひとつご紹介しましょう。先日、2年前に支援学級で学校版ピアーズを受けた生徒が、保護者を対象とした進路説明会で“卒業生からのメッセージ”を発表するという機会がありました。ピアーズの授業を受けていた中学2年生頃の彼は、他の生徒よりも幼く、ウケをねらって発言したり、行動リハーサルでもふざけてみたりするところがありました。ところが高校生になった彼は、高校生活の様子をしっかりと伝え、保護者の質問にも落ち着いて答える等、見違えるほどしっかりと成長していました。中学生から高校生への数年間でこのような成長を見せてくれた彼の姿を通して、改めて思春期の子どもたちの持つ大きな可能性に気づかされました。そしてピアーズは、“今できないこと”にフォーカスするのではなく、“これからのために役立つこと”を目指しているのだと、改めて実感したのです。